2005年06月14日

魔力使の旅物語―プロローグ

世界には、魔力を持つ種族が何種類か存在した。

人間もその内の一種だったが、それを行使することが出来た者は少なかった。

そして、それが出来た者は、魔力使と呼ばれた。

これは、そんな魔力使の、旅物語――
posted by ベネディクト at 18:47| Comment(26) | TrackBack(10) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月12日

魔力使の旅物語 0話 悪魔の登場―序章 彼らはそこに居た

    ここは、とある大陸の、とある街道だ、空からは、何か悪意を持っているのでは、と思える程
   に、暑い光が降り注いでいる。 
   
   ここに四人の旅人がいた、しかしどう見ても『ただの旅人』には見えなかった。
   
   それはなぜかと聞かれれば、彼らの『服装』と答えるしか無さそうだ。
  「ゼロ君、次の街にはまだ着かないのかい?」
   と、端整な顔立ちで、しかしどこかおどけた様な表情の、白ずくめに、銀色のマントを羽織って
    いるという、奇妙な格好をした男が、仲間の一人に、もううんざりだとでも言うように声をか
    けた。
  
  「やかましい!誰のせいで三十キロも先の街に、急ぎで行くことになったと思ってんだ!」
   と、ゼロと呼ばれた男――こちらは黒ずくめで黒いマントを羽織っている、美男子と言っても差
    し支え無い顔立ちではあるが、意識しての事であろう、目を細めて、目つきを悪くしている事
    と、その口の悪さがそう呼ばせる事を拒否している。 
    
    それでも、舞台の上で悪役を演じる美男子と言ったところになってしまっている――
    
    が、声をかけてきた男に向かって怒鳴った。
  
  「ホントよねーフラッシュにも困ったもんだわ」
   と、もう一人、今度は女のようだ、こちらは赤ずくめに赤マントを羽織っている、ちょっとした
    美女と言ったところだ――
    が、軽い口調で、しかし、心からそう思ってる、とでも言う風に言った、それに対してゼロは
    少々の憎しみを込めた様な声で言う。
  
  「アーリィ、お前の方がよっぽど困ったもんだよ、こうなったのも、全部お前とフラッシュが原因
   だろーが」
  
   さて、何故この一行は炎天下の中、三十キロ先にある町まで歩いているのか、その原因はアーリ
    ィとフラッシュである。
   
   それは二日前の夜までさかのぼる、一行はカイラルという街にいた、カイラルはギャンブルの街
    だ、当然カジノがあり、手持ちに余裕があれば、遊ばない理由はないだろう。
  
   そしてカジノには先ほどの三人が居た。
  
  「まあ、こんなもんだろ」
   と、言ったゼロのコインケースには、千サークルコインが三十枚ほどあった。
    サークルとはこの世界の貨幣の単位で、日本と言う国の貨幣と同等の価値がある、つまり一サ
    ークル=一円、というわけだ、カジノではサークルをコインにかえて遊ぶのだ。
  
  「(五千サークル使って約三万サークル、ここまではOKだ、しかし、問題はあの二人だ…)
  「ふっ、まだまだ甘いよ、ゼロ君!カジノにきたらこのくらいしないとね!」
    突然、フラッシュが後ろから声をかけてきた。
  
  「ほほう、それで?なぜお前はカラのコインケースをぶら下げているんだ?」
   ゼロは振り向いて言った、ゼロが指摘したとうり、フラッシュはカラのコインケースをぶら下げ
    ていた。
  
  「カジノでは、手持ちのコインを一度に全部賭けるのが常識と言うものだよ」
  「そーよゼロ、フラッシュの言うとうりよ」
   どこからともなくアーリィがあらわれて言った、見るとこちらもカラのコインケースを――
    なぜかしっかりと抱いている。
  
  「それで、自分の手持ちのコインを全て失ったってわけか、俺はそんな馬鹿な事はしないんだよ」
   心の中で、やっぱりな、と思いながらゼロは言う、そこにフラッシュは勝ち誇った声で――
  「しかし、君のサイフとコインはすでにいただいた!さあ、ルーレットへゴー!」
  「って、いつのまに!待てコラー!」 
   ――その後は、言うまでも無いだろう、とにかくまあそんなわけで、
   こんな状態になっているわけである。  

  
  「まったく、この大陸じゃあ、金がないと水の一滴も買えないっつーのに、けっして多いとは言え
   ない、手持ちの水と食料だけで、この真夏の!この炎天下の中!三十キロ先の街まで、馬車に乗
    る金もないから、歩いて行かなきゃならなくなったわけだ!この馬鹿二人の、この馬鹿二人の
    おかげでぇー!!」
   ゼロが最後は両手で頭を抱えながら、叫ぶように言った。
  
    「むう、そんな人間がいたのかい!?」
  「全然気がつかなかったわね〜、どこにいるの?その馬鹿二人って言うのは」
   二人が、周囲をキョロキョロと見回しながら言った。
  「お……」
  「お?」
  「お前らのことだボケェ!」
   と、ゼロの目の前から黒い光の球体――としか表現できそうに無い物が現れ、フラッシュとアー
    リィ目がけて飛んでいった、ドン!と、大きな音とともにそれが爆発し、砂ぼこりがまきあが
    った。
   
   跡にはフラッシュとアーリィが倒れていた――が、すぐにふらふらと立ち上がってきた。
  
  「御主人様、ちょっとやり過ぎじゃ…」
  「レイ…大丈夫だよ、手加減しておいたから」
   レイと呼ばれた十歳ぐらいの少年、いや少女――だろうか、どちらともつかない顔立ちをしてい
    る――は、青い生地に白い線を何本か引いた全身服を着ているが、腕の部分は手が出ないほど
    長く、足の部分は短い、といった変わった服だ。
   
   そしてその服に合わせる様に、髪の色も青く、その額からは角が生えている。
   ――と、フラッシュとアーリィが起き上がってきて文句を言う。
  
  「いきなり何をするんだ!手加減したって言っても――」
  「魔術はそのつもりで放てば人を殺せるんだから、こんなくだらない事で使わないでよ!」
    フラッシュの台詞をアーリィが引き継いだ。                   
  
  「そのくだらない事の原因はお前らだろうが!何だったらもう一発、今度は『そのつもりで』放っ
   てやろうか!」                  
  「まあ、魔術を使われても仕方の無い事だったね」 
  「そうね、わたしたちが悪かったわ、ゴメンネ♪」
  「最後の♪が気になるが…まあいい、昨日は結構歩いたから、昼前には着けるはずだ、ウィンダル
   ――魔力使支援協会『サンクチュアリ』のある街に…さあ、そろそろ出発するぞ」
  「そこに行けば依頼が受けられるんですね?」
  「ああ、でも最初はすぐに終わる簡単な物にして、そのお金で何か食べないとね」
   フラッシュが答えたのとほぼ同時に、ぐきゅるるる〜
   と、突然レイを除く三人のお腹がなった、無理も無い、昨日は乾パンを三っつか四っつぐらいし
    か食べていないのだ。
  
  「だ、大丈夫ですか?御主人様…」
   レイはゼロに近づいて言う。
  「レイ君、僕やアーリィの事はどうでも良いのかい…?」
   と、突然フラッシュがちょっと悲しそうにレイに聞く、するとレイは申し訳なさそうに言う。
  
  「ご、ごめんなさい、つい御主人様が気になって…」
   レイのその言葉にゼロは。
  「まあ、レイは『ガーディアン』だからな、俺を守る事が最優先なんだ、仕方ないだろ」
   と、ゼロは嬉しそうに言う。
  
  「そういえばレイ、そろそろ食事が要るか?」
  「あ、はい、お願いします」
   と、レイが言うと、ゼロはレイの角に手をふれた、すると、レイの角が淡く光る、数秒後、光り
    が止まった。
  
  「ふうっ、もう良いのか?」
  「はい、御主人様の魔力はとても強いから、すぐにお腹がいっぱいになります」
  「そうか、んじゃ行くか」
   さて、三十分程歩いた頃だろうか、一行の様子に目を向けてみると、フラッシュが何やら騒いで
    いる。
  
  「ははははは!街が見えた、これでやっと何か食べれるぞ!」
  「ふうっ、やっと着いたか…」
  「長かった、歩き始めて二日もかからなかったのに一週間ぐらい歩いた気分…」
   余程疲れたのだろう、アーリィは地面に座りこんでしまった。
  「レイ、そろそろ角を隠しておけよ」
  「わかりました」
   と、レイが返事をすると額の角がすすっと消えた。
   
posted by ベネディクト at 23:11| Comment(1) | TrackBack(1) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月10日

魔力使の旅物語 0話 悪魔の登場―第一章 それは、彼らの前に現れた

  そして一行はウィンダルに到着した、そしてすぐに『サンクチュアリ』に向かったのだが…
  「あのー魔力使の方ですよね?」
   突然、後ろから声をかけてきたのは、別にどうと言うことも無い、普通の男だった。
  
  「見りゃわかるだろ、マントを羽織ってて、魔力使じゃない奴が居るかよ」
   ――と、言うのは、この世界では魔力使という、魔術を使えて、さらに魔力使支援協会に所属し
    ていなければ、一部の色を除いて、マントを羽織る事を許されないのだ。
  
  「やっぱりそうですか!実は困ってるんです、ぜひ頼みたい事があるんですが――」
  「間に合ってるよ、さあ、いこうか」
  「そうだね、急いで簡単な依頼を受けに行こう」
  「そうね、早くしないとお腹がすいて倒れちゃうわ」
   と、三人は『サンクチュアリ』の入り口に向かう、レイも少し遅れてついて行く、それを慌てて
    引き止めようと、男はこう言った。
  
  「お…お腹がすいてるんですか、だったらごちそうしますよ、だから話を――」
   するとその一言で、三人が体の向きを変えて言った。
  「まあ、話を聞くだけなら…」
  「そうね、話を聞くぐらいはしてあげましょ♪」
  「まあ、構わんが…」
  
  「で、話ってのは何なんだ?」
   ここは、近くにあった宿の食堂だ、一行はそこでラルフ――先ほど声をかけてきた男だ――に代
    金を持ってもらい、たった今食事を終えたところだ。
  
  「実は…この街の近くにモンスターが出る洞窟があるんです、その洞窟の奥にある剣を取ってきて
   ほしいんです」
  「ふーん…あっ!ひょっとしてその剣って、売ったらかなり値が張る物だったりする?」 
   アーリィが期待を込めた声で訊ねるが――
  「いえ、せいぜい千サークルぐらいの安物だそうです」
   それを聞いて、アーリィはがくっと肩を落とした。
  「そんな事、誰に聞いたんだい?」
  「え、何がですか?」
  「いや、その剣が千サークルぐらいだって事だよ」
  「テレイアに聞いたんですけど…」
  「テレイアさんってだれですか?」
  「ああ、 私の恋人です…一応、そして――洞窟に剣を置いてきたのも彼女です」
  「……えーっと、全然話が見えてこないんだが…」
  「つまりですね…彼女は強い男が理想なんだそうです、だからモンスターを倒して剣を取って来た
   ら結婚するって言うんですよ……でも、そんな事私には無理です、だから皆さんに取ってきて欲
    しいんです…」
   と、ラルフが言い切るよりも早く、レイ一人を除いて一行は席を立った。
  
  「そーか、それは大変だな」
  「頑張ってね♪」
  「話も聞き終わった事だし、依頼は『サンクチュアリ』の方が割が良いだろうね、僕達は、そろそ
   ろ行くよ」
   三人が順々にラルフに声をかける、ちなみにこの様な依頼は『サンクチュアリ』では五万サーク
    ル程貰える仕事だろう。
  
   そしてレイを連れて宿の出口に行こうとする三人を、慌てて引き止めてラルフが言った。
  
  「ま、待ってください、依頼料だったら前金で十万サークル出します!剣を持ってこれたらもう十
   万――」
  「――と、言いたいところだが、人は助け合わねばならない」
  「そうね、困ってる人を見たら助けないとね」
  「まあ、食後の運動に丁度良いかもな」
  (大丈夫かなぁ…)
   その時、ラルフは、ちょっぴり不安になったと言う――
  
  
  「――ライトアップ!」
   洞窟内にフラッシュの高らかな声が響き、魔術の光球がフラッシュの頭上に浮いて辺りを照らし
    た、すると、洞窟の横幅が妙に広い事が分かった、一行が横一列に並んでみてもまだ余裕があ
    った。
   
   恐らく、昔は炭鉱か何かだったのだろう、ところどころ木材などで舗装されている。
  「さーてと、モンスターは奥に居るみたいだな、試してみたい魔術と魔法がいくつかあるんだ
   よな」
  「そういえば御主人様、魔法と魔術ってどう違うんですか?」
  「ああ、そうか、ガーディアンと人間じゃあ魔力の使い方が違うんだったな、えーと、まず魔術を
   使うには、魔力と、意思と、声が必要だ。 
    魔力を意思によって変化させ、声を引き金にして魔術を放つ、この時の声は何を言っても良い、    
    そして魔法には、それプラス呪文――精霊や魔王なんかの力を借りたり、あるいはただ単に魔    
    術の威力を上げるために唱える、まあ、一種のおまじないみたいなものだな。 
    もちろん、魔法の方が基本的に威力は上――基本はこんなもんだ…分かったか?」
  「分かりました、魔法の方が、魔術よりも強いって事ですね!」
  「まあ、簡単に言えばそうだけど…」
  「しかしゼロ君、今の解説には少々おかしいところがあったよ」
  「え、どこがだ?」
  「魔王の力を借りて魔法を使うのには特異な魔力相性と高い魔力が必要だ、そんな魔力使は、五十
   人に一人ぐらいだろう?魔力使とその他の人の比率は一対二百ぐらいだから…一万人に一人い
    るかいないかってところだ、そんな特殊な例を当たり前の様に言うのはおかしくはないかな?」
   フラッシュが言った四千人に一人と言うのは、あくまでも単純計算だ。 
    
  実際には『サンクチュアリ』の依頼は命を落とす事もあるため、強くなるのに特殊な訓練が必要な魔
   力使になろうとする人間は少なくなってきているので、魔王の力を借りることのできる魔力使はもっ
   と少ないはずだ。 
   
   ちなみに魔力相性と言うのは、力を借りる相手との魔力の相性の事で、いくつかの種類があるが
    魔王から力を借りる事ができるのは、最も少ない魔力相性の一つである[アーリマン]と呼ばれ
    る魔力相性を持つ者だけなのだ。
  
  「ホント、非常識なぐらい魔力が強いのよね〜ゼロは、魔術でドラゴンに対抗できる人間なんてあ
   んたぐらいよ」
   アーリィが半ばあきれるように言った、ドラゴンとは、戦闘能力では地上世界最強の生物で、さ
    らには人語を始め、あらゆる言語を解し、その知識は人間の及ぶところではない、人間が戦い
    を挑んでも、まず相手にすらされないだろうし、並の魔力使では、その鱗を傷つけることすら
    出来ないだろう。
  
  「全くだね、僕やアーリィでさえ、魔法無しじゃあ、ドラゴンは倒せないよ」
  「そのセリフ、そこらの魔力使にはいやみに聞こえるぞ」
   くっく、と笑いながらゼロが言う。
  
  「ま、良いんじゃない?私達だって訓練の成果でこの力を手に入れたんだし、そのぐらい言ったっ
   てばちは当たらないでしょ」
   そんな話をしながらも、一行は洞窟内を進んでいた、すると、レイが突然――
  「何かいます!多分モンス――」
   レイが言い終わらぬ内に、二つの分かれ道の右の方から、のそのそと、身長二メートル程の大男
    ――いや、モンスターが歩いて来る、オークだ、その巨大な体躯に見合う怪力と体力を持つモ
    ンスターだ、しかし、ただ体力と力だけのモンスターなど魔力使の敵では無い。
  
  「よっし、俺がやるぜ、新開発の魔術を食らえ!――氷牙の棺!」
   ゼロが魔術を放つと、オークの足元から氷の板が現れ、そこから根元が十センチ程もある、氷で
    出来たつらら状の突起物が無数に出現し、オークの体を貫いた!オークの体から血が滴り落ち
    ――その傷口から徐々に、オークの体が凍りついていく、オークはそこから抜け出そうと、必
    死になってもがくが、魔力の込めてある氷を砕いたり出来るわけも無く、やがて長方形の氷の
    塊が出来た中に閉じ込められた、その形は、まるで縦に置かれた棺の様だった。
  
  「えげつない魔術使うわねー、あんたの魔術ってこんなのと、あとは爆発を起こすのとかしかない
   わけ?」
  「そんなわけねーだろ!大体、爆発系の魔術や魔法は何体もの敵を一発で蹴散らせるし、相手が
   一体だけなら避けずらいとか、実用性があるから使ってるんだよ!」
  「なら……あのような魔術は、なぜ使っているんだい?」
   フラッシュが、先ほどのオークを目線で示しながらゼロに尋ねる、
  「それは…ほら、モンスターの死体を研究材料に手に入れたいって依頼があるだろ、その為の魔術
   を作ったらこうなっただけだ、氷の塊に閉じこめれば、保存状態が良くなるし…」
  「まあ…そーかもしんないけどさ」
  「そーそー、んじゃそろそろ先に進んで――どうした、レイ?」
   ゼロがレイの方に目線を移すと、レイが震えている、そしてゼロが聞くとレイは震えながら言っ
    た。
  
  「まだ何かいます、もっと…危険な物が……」
  「よく…気が付いたな」
   と、この声が聞こえたのと同時に、オークを閉じ込めていた氷の棺が、ビキビキと音をたててく
    ずれ、オークの死体がどさりとうつ伏せに倒れこんだ、そして、その後ろから、翼を片方もぎ
    取られた天使の様な男が現れた。
   
   それを見たゼロは、うめく様に男の正体を指摘した。
  「悪…魔…?」
   悪魔――それは『魔界』と呼ばれる地下世界に住む生物の総称であり、ドラゴンを遙かに上回る
    戦闘能力を持つ者も少なくない、人間に対しては友好的である場合が多いが、自身よりも上の
    立場の者(大体が魔王である)の命令があれば人間の命どころか、同じ悪魔の命すらも簡単に
    奪う種族であり、呼び出されたりしない限りは、基本的に人間の前には現れない、それがゼロ
    達の前に現れたと言う事は、その目的はおそらく――
  「我輩は魔王アスタロト様に仕える悪魔、ペイシェントと言う者だ、キサマを――殺しに来た」
   ペイシェントの静かな声が洞窟の中に響き――ゼロは、ペイシェントの言った言葉を、頭の中で
   繰り返していた。 
  
  (キサマを――殺しに来た?)
  
posted by ベネディクト at 22:22| Comment(1) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月07日

魔力使の旅物語 0話 悪魔の登場―第二章 ゼロの力

  「そうか、それは助かる、さあ、早くしてくれ」
   と、言いながら、ゼロはフラッシュの後ろに回り込み、ペイシェントに向かって突き飛ばす、すると
    ペイシェントがこう言った。
  
  「コイツではない」
  「なに?違うのか、そうか、コイツだな?」
   そう言いながら、今度はアーリィを突き飛ばした、しかしペイシェントは――
  「コイツでもない」
  「アーリィでもない?じゃあ人違いだ、他を当たってくれ」
   自分かレイだと言う事には思い当たらないのか、ゼロはそんな事を言う、すると。
  
  「なんて危険な事をするんだ!」
  「そうよ!あんた私たちを抹殺する気だったでしょ!」
   と、フラッシュとアーリィがゼロの方に戻って来て非難の声を浴びせる、しかしゼロは慌てずに
  「ふっ、抹殺だと?何の証拠があってそんな事を、俺はただ、お前らにそろそろ消えてもらう為に
   あの悪魔の力を借りようと――」
  「それを抹殺と言うのでは?」
   と、意外な所から意外にまともな一言が出てきた、その一言でゼロの言葉が止まる、そしてペイ
    シェントがさらに続ける。
  
  「それに…我輩が殺しに来たのは、ゼロとか言う男だ、それはキサマだろう?」
  「…今、空耳が聞こえた気がするが…気のせいだな、空耳だし」
  「空耳じゃあ無いよ、僕にも聞こえたからね♪」
  「私にも聞こえたしね♪アイツが殺しに来たのはゼロだって、頑張ってね♪」
  「ふざけんな!アスタロト配下の悪魔に――まあ、勝てるが…かなりしんどいだろ」
   アスタロトとは、魔界の西方一帯を治める大公爵であり、魔界の支配階級の中でもトップクラス
    の魔王だ、その力は、ほんの十年前にドラゴン数百体を一体も殺さずに倒したと言うその事実
    からも明らかだろう――と、レイがゼロの前に出てきた。
  
  「大丈夫です、御主人様はボクが護ります!その為にボクは呼び出されたんです!」
  「ほう、ならばまずはガーディアンが相手か…それも面白い」 
   ペイシェントが言うと、今度はゼロが、レイの前に出てきた。
  「おっと、勝手に決めんなよ、闘わないとは言ってねえぞ、お前には俺と、一対一で闘ってもらう
   ぜ」
  「…それは、我輩と契約決闘をする、と言う事か?その意味が分かっているのか?」
  「馬鹿にすんな、契約決闘――悪魔がバリアを張って、誰も手出しが出来ない中で悪魔と一対
   一で闘う、勝てばその悪魔を従わせる事が出来る、負ければ魂が魔界に連れて行かれて、その悪
    魔に従う事になる、こんなとこか?」
  「待ってください!そんな危険な事、御主人様にはさせられません!」
   と、レイがゼロの腕を掴む、しかしアーリィがレイに声をかけてやめさせる。
  
  「大丈夫よ、レイ、あなたの御主人様はあんなへんてこなヤツに負けたりしないわよ」
  「ちょ、ちょっと待て!へんてこなヤツと言うのはまさか我輩の事か?」
  「当たり前でしょ、あんた以外に誰かいる?」
  「いないね」
  「まあ、いないな」
  「いません」
  「…そんな、全員続けて言わなくても……」
   と、言いながら、ペイシェントはいつの間にか、こちらに背を向けてしゃがみながら指先で地面
    にのの字を書いたりしていた、そこにさらにゼロ達は追い討ちをかける。
  
  「そもそも翼が片方無い時点でおかしいんだよな」
  「そうそう、たしか天使の翼って、もがれても一瞬で再生出来るのよね」
  「だからゼロ君も悪魔だと判ったんだろうけど、やはりへんてこだね」
   ゼロ達にそう言われたペイシェントは、まだこちらに背を向けてしゃがんでいたが、後ろ姿はな
    んだか泣いている様にも見えた、実際に泣いているのかもしれない、そして――
  「フラッシュ、アーリィ、あれをやるぞ」
  「あれかい?まあ、仕方が無いね」
  「相手が悪魔じゃね〜」
   と、三人はペイシェントに聞こえない様にひそひそと喋っていた、そして――
  「闇の角!」
  「ホーリービーム!(×二)」
   と、ゼロ達が唱えると、ゼロの目の前に黒い角の様な物が、アーリィとフラッシュの目の前から
    は筒状の光が出現し、ペイシェント目がけて飛んでいき、すべて直撃した、黒い角がペイシェ
    ントの体に突き刺さり、筒状の光が体を焦す――しかしペイシェントは「ぐぅっ」と短い呻き
    声を上げただけだった、そしてゼロ達の魔術も消え去った。
  「ふざけたまねを……」
  「おいおい、マジかよ…」
  「一応全力で放った魔術だったんだけどね…」
  「今の魔術は鉄だって溶かせるのに、ちょっと焦げただけ!?」
   それに対してペイシェントは、傷と火傷を治す為に右腕を傷口に当てながら言う。
  「どうと言う事も無い、魔力で障壁を張って防いだだけだ、とっさの事で充分な魔力を出せず、ダ
   メージを食らってしまったがな…それもすぐに治せるとは言え、また不意打ちされるのも面白くな
    い、そろそろ始めるぞ…」
  「あの一瞬であのレベルの魔術を防ぐ障壁か……ちょっとばかり甘く見ていたかもな…フラッシュ
   アーリィ、レイ、俺から離れろ、あいつはバリアを張る気だ…」
   ゼロがそう言うと、フラッシュ達はゼロの側から離れた、フラッシュとアーリィは余裕の表情だ
    が、レイはまだ少し不安そうだ、そんなレイを安心させようと、フラッシュとアーリィがレイ
    に話しかけているようだが、それもペイシェントがバリアを張り、聞こえなくなった。バリア
    は周囲の音すらも遮断するが、中の音は外に聞こえるらしい――何かの本で読んだな、などと
    考えて、ゼロは目の前の敵に注意を向けながら言う。
  「正直、バリアを張ってくれて助かったぜ、洞窟の中じゃいくら舗装されてるって言ったって下手
   に強力な魔術や魔法を使えば、崩れて生き埋めになるかもしれないからな、だがバリアの中なら
   何をしても外には音以外の影響は出ない、これで…全力で戦える!」
  「それがどうした、人間のレベルでは我輩には決して勝てない…キサマが自分で言った様に、キサ
   マは我輩を甘く見すぎていたのだ」
  「それはどうかな、俺はお前に勝てる奴を……少なくとも六人は知ってるぜ、俺も含めてな」
   そう言うとゼロは、魔法を放つ為の呪文を唱えはじめた。
  
  「天を追われた輝く天使、すべての悪魔を従える――」
  「!?ばかな!そんな事が――」
   ペイシェントがゼロに向かって走る足を止めてうろたえている、と――
  「なんてな――光の終焉!」
   ゼロが呪文を中断して魔術を放った、黒い光の奔流が音も立てずペイシェントに襲いかかる、ペ
    イシェントは不意を突かれながらも魔力の障壁を張った様だが、ゼロの魔術はそれをあっさり
    破り、ペイシェントの右腕を音も無く吹き飛ばして消えていった。
  
  「キサマ…今のは、ただのハッタリか!」
  「おいおい、フェイントと言え、今の呪文だって実際に使えるんだ」
  「いばるな!姑息な手段ばかり使いおって…キサマはまともに闘う気があるのか!?」
  「そんなもんはない」
  「…は?」
   ゼロの言葉に、ペイシェントが間の抜けた返事を返す、さらにゼロがペイシェントに指を突きつ
    けて言う。
  
  「お前は知らないみたいだな…なら教えてやろう、まともじゃない闘い方が俺の闘い方だ!」
  「ふざけるな!もーちょっとこう…あるだろう!?お互いに全力で闘うとか…」
  「全力と言うのは全ての力を出す事…不意打ちは俺の力の一つだ!」
  「なんだそれは!?そもそもキサマ――」
  「――光の終焉!」
   ペイシェントの結構まともだったであろう反論は、ゼロの魔術によってかき消された。
    
    今度は完全に食らったらしく、今度は右足を吹き飛ばされ、仰向けに倒れこむ、その隙にゼロ
    は静かに(ペイシェントに聞こえないように)呪文を唱える。
  
  「天を追われた輝く天使、すべての悪魔を従える、魔界の皇帝ルシファーよ、俺にその力を貸せ!」
   呪文は唱え終わったが、力を借りる相手が強大過ぎる為、力が[来る]には時間が掛かる。
  
  「ぐぅぅっ殺してやる…」
   ペイシェントは自分の体を元に戻す事に専念している、今右足が再生した、が――
   (来たぜ…)
  「魔帝の波動!」
   ゼロが魔法を放つと、ゼロの体から周囲に向けて闇が広がり、やがてペイシェントを飲み込んだ。
  
  「この我輩が、何もせずに…よくよく考えれば、全体的にくだらないやられ方をぉぉー!」
   ペイシェントが叫び、そして闇の中に消えていった。
   
   それと同時に、バリアも消える。
  
  「ふうっ、勝ったぜ…フラッシュ、アーリィ、レイ…」
  「見てたよ、やっぱり色々な意味でメチャクチャだね、ゼロ君は…」
  「ホント、あんな強力な悪魔を、無傷であっさりと倒しちゃうんだもん、なんかズルイ気がするけ
   ど、それにしたってあの悪魔を完全に消滅させちゃう様な魔法を使えるなんて、メチャクチャよ
    ね…」
  「すごい…これが、御主人様の力……」
  「まあ、レイを召還したのは一、二ヶ月前だもんな、まだ見せてなかったか…でもこれで、安心し
   たか?」
  「はい…でも御主人様ってボクより強いんじゃ…それじゃボクの立場って……」
  「気にすんな、二人いれば一人じゃ出来ない事が出来る、マジな話、俺が旅をして得た教訓だ…」
   ゼロが後半は遠い目をしながら言った。
   
   (御主人様…過去になにが…?)
   レイがそんな事を考えていると、フラッシュが言う。
  
  「しかしゼロ君、仲間なら既に僕やアーリィが居るじゃないか」
   しかしゼロは冷たく言った。
  「だまれ、お前とアーリィは数に入らないんだよ、お前らのおかげで得た教訓なんだからな」
  「ちょっと、なんで私まで?」
  「自覚が無いとこが理由の一つ……」
   ゼロがつぶやく様に言った。
  
  「なんか言った?」
  「何でも無い、さっさと行こうぜ」
  「そうだ、僕達は剣を取りに来たんだったね」
  「早く行きましょう!」 
  「そうね…すっかり忘れてたわ…」
   すると突然、どさっ――と、何かが落ちてきた。
  「…ぐっ……」
   ペイシェントだ、ダメージも――少なくとも外見上は消えている様だ。
  「おっ、やっと出てきたか」
   ゼロが言うのに反応したのかどうか知らないが、ペイシェントが上半身を起こした。
  
  「むっ…そうか、我輩は負けたのだったな……」
  「ちょ、ちょっと、どうなってんのよ、ゼロが倒したんじゃ…」
  「なんだ、知らなかったのかい?悪魔は自分が作ったバリアの中では死ぬ前に別の空間に転移    
   させられて、傷も治るんだ」
  「――その代償に、負けた相手に仕える事になるがな…この我輩が、こんな奴に…」
  「ほほーう、今の俺は、お前にとってはちょっと前までのアスタロトと、同じ立場だぞ、その俺に
   [こんな奴]?」
  「ぐぅぅっ!?……命令には従うが、言葉使いまで変えるつもりは無い!」
  「…まあ良いだろ、そんぐらいの方が、悪魔を従えてるって感じが出る」
  「それはともかく、早く剣を見つけに行かないかい?」
  「おっと、そうだったな、じゃあ行くか」
   ――その後は出て来るモンスター達を、ペイシェントに片づけさせて先に進むだけだった。
   
   
     そして――ゼロ達は、わざとらしく大岩に突き立った剣を見つけた。
  
  「これか?」
  「まあ、安物だと言っていたし、こんなものだろうね」
  「なんか…安物を通り越して廃棄品ってカンジね…」
  「ぼろぼろですね…」
   そう、ゼロ達が見つけた剣はすでにぼろぼろで、ところどころ腐食していた。
  
  「とりあえず…これを持って帰れば良いだろ、違ったら違ったで、また探しに来れば良い」
  「そうね、じゃ、帰りましょ」
   そうアーリィが言うと、突然ペイシェントが言う。
  
  「おい、まさかとは思うが…我輩はモンスターを蹴散らす為だけに契約をさせられたのか!?」
  「はっはっは、そんなわけないだろう、ちゃんと他の仕事も用意してある」
  「まあ、それなら…良くはないが、無いよりはマシだ…それで、どんな仕事なのだ?」
  「この洞窟を歩きながら考えていたが、保育園の保父さんとか――」
  「まてい!」
  「なんだ?」
  「なんで悪魔の持つ力が全く必要ない仕事なのだ!?それ以前に、なぜこの我輩が子供の世話を
   したりしなければならんのだ!?」
  「…愚問だな」
  「なに?」
  「答えは簡単、はたから見ていてとても愉快そうだからだ」
  「……殺す、絶対に殺す…」
  「まあまあ、悪魔は仕えている相手には、本能が逆らえないんだから、諦めた方が良いよ」
  「ぐぅっ、なぜこんな奴に仕えなければならんのだ……」
  「まあ、運命と言うやつだな、フラッシュが言ったとうり、諦めろ」
  「それじゃ、帰りましょうか」
posted by ベネディクト at 21:20| Comment(1) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月03日

魔力使の旅物語 0話 悪魔の登場―第三章 依頼完了

  「これが、洞窟で見つけた剣ですか…」
   ここは、数時間前にも来たウィンダルの宿屋の食堂だ、ゼロ達はここでラルフに待っていてもら
    ったのだ、そして、洞窟で見つけてきた剣を渡したところだった。
  
  「ああ、洞窟の奥の方にあった大岩に突き立っていたよ、さあ、報酬をくれないかい?」
  「ええ、わかりました、一、二、三……九、十と、はいどうぞ」
   ラルフが一万サークル紙幣を数えてからフラッシュに渡した。
   
   フラッシュはそれを数えながらラルフに尋ねる。
  
  「しかし…なぜ[サンクチュアリ]に依頼しなかったんだい?この報酬は相場の約四倍…[サンク
   チュアリ]が仲介料を取るとは言え、いくらなんでも破格だ、『サンクチュアリ』ならもっと安
   く、しかも前金を持ち逃げされたりの心配も無いのに、なぜわざわざ僕らに依頼したんだい?」
  「たしかにな…それは俺も気になっていた、なんでだ?」
  「実は…剣を洞窟から持って帰ってくる事になったのは昨日の事で…期限が今日までだったんです
   『サンクチュアリ』に依頼していたら、間に合わなかったんですよ…」
  「そういえばそうね、『サンクチュアリ』に依頼してから、それが正式な『サンクチュアリ』の依
   頼として認められるのには、二日か三日は掛かる事が多いしね〜」
  「『サンクチュアリ』には全世界の支部を合わると、毎日とんでもない数の依頼が来るからな、し
   かたねーだろ」
  「そして、その依頼を我輩がやらされる事にもなるわけだ」
   突然ペイシェントが言ってきた、実はさっきから居たのだ、実は悪魔が街の中に居ると言う事は
   それほど珍しくない、そこそこ腕の立つ魔力使ならば、ごく弱い悪魔(それでも並の人間よりは
   もちろん強いが)を呼び出して、契約決闘をしなくても、何かの報酬(大体は価値が変わりにく
   い純金など)を渡せば、一定の期間、その悪魔を従える事が出来るので、遠くの街まで買い物に
   行かされたり、ペイシェントが言った様に、『サンクチュアリ』の依頼をやらされたりする。
  
  「ああ、そうだったな、じゃあそろそろ、保父さんの仕事を探しに行くか」
  「やめろ!我輩は絶対にそんな仕事はやらん!」
  「じゃあ、百貨店の迷子センターとか――」
  「もういい!どうせやる事になるのだ…意地になるだけ無駄だな」
   そう言ってペイシェントはため息を一つ、そして、うつむいて何も言わなくなってしまった。
  
  「それはともかく…そろそろ『サンクチュアリ』でもう一つぐらい依頼を受けて、旅費を貯めない
   とね」
  「そうだな、そろそろ行くか」
   ゼロはそう言うと、席を立った、フラッシュやアーリィ、レイも、そして少々遅れてペイシェン
    トも席を立つ、すると、不意に入り口のドアがキィ、と音を立てて開いた。
   
   ドアの向こうにいたのは、笑顔の、どこにいてもおかしくない普通の女性だった、ただしその左
    手に、直径十センチ程の鉄球を握ったりしていなければ、の話だが。
  
  「テ…テレイア、どうしてここに!?約束の時間まではまだかなりあるはず…」
   ラルフが慌てた様に言う、どうやら突然現れたこの女性が、洞窟に剣を置いてきたラルフの恋人
    なのだろう、ラルフの言葉に、テレイアは少し迷ったようにこう言った。
  
  「実は、洞窟に置いてきた剣は、骨董品店で買った物だったのだけれど…それが店の人の手違いで
   ただぼろぼろなだけの剣と、ぼろぼろの刀身の様な鞘の名剣が入れ替わっていたらしくて…その
    剣が多分…」
  「…ちょっと貸してくれ」
   ゼロがラルフに言う、ラルフは多少困惑した表情で、ゼロにその剣を渡した、ゼロはその刀身の
    腹を右手で掴んで引っ張った、するとぼろぼろの刀身が柄から離れて、一回り小さい、そして
    鋭い刀身が姿を現した、それをゼロはしばらく眺めていたが、やがて剣を鞘に収めて言った。
  
  「これはかなりの名剣だな、値段を付けるなら、大体八百万、てとこか…」
  「おや、ゼロ君、君は剣の鑑定なんて出来るのかい?」
   フラッシュが意外そうにゼロに聞く、するとゼロは何でもない様に言う。
  「まーな、家に居たころ覚えさせられた、剣以外も骨董関係の物はある程度鑑定できるけどな」
  「あんたの家って骨董品店でもやってるわけ?」
   アーリィが聞く、すると少し動揺した様にゼロは言う。
  
  「い…いや、俺の家は普通だぞ、いたって普通だ、で、テレイアさんだったっけ、この剣をどうす
   んだ?やっぱりその骨董品店に返すのか?」
   ゼロに突然聞かれて、テレイアは少し考える様にしてから、しかし笑顔のまま、こう答えた。
  
  「……多分、そういう事になるんでしょうね」
  「むー、もったいないな…俺が欲しいぐらいなんだが…まあ、仕方ないか」
  「なんだ、キサマは剣を集める趣味でもあるのか?」
   ゼロが言ったのを聞いて、ペイシェントがゼロに聞くと、ゼロはこう答える。
  
  「いや…そういうわけでもないが、ここまでの名剣だ、やはり一振りは持っておきたいもんだな」
  「御主人様、その剣はそんなにすごい剣なんですか?」
  「ん、ああ…そうだな、それなりに大きい美術館にも二本あるかないか、だな」
  「あっそれよりテレイア!僕は剣を持ってきたよ、これで――」
  「あら、その人達に取ってきてもらったんでしょ、店の外で聞いてたわよ」
   テレイアが言い終えた時、どこかでビキッという音がした、見るとテレイアの左手の鉄球にヒビ
    が入っている、それを床に落とし、笑顔のままで言う。
  
   「あなたが取ってきた剣じゃないんだから、あの約束は無効ね、でも私はあなたにチャンスをあげ
   るわ、私に勝てたら結婚してあげる」
  「無理だぁ〜!勝てっこないよ!魔力使さん、助けてください!!」
   ラルフはゼロの腕に抱きついて助けを求める、が。
  
  「あなたは誰ですか?」
  「って、他人のふりですか!?ちょっと前に依頼をしたばかりじゃないですか!?」
  「そんな事もあったかなぁ、でも今は依頼を終えたから、赤の他人って事で」
  「って事で、じゃありませんよ!なんでも良いから助けてください!!」
   そう言ったラルフにゼロは怪訝そうに聞く。
  
  「何でだ?」
  「えっ、何でと言われても…ほら、私に命の危機が…」
  「そうか、命の危機か、それは大変だな、じゃあ俺はそろそろ外に出るとしよう」
  「何でそうなるんですか!?助けてくださいよ!依頼料ならお支払いしますから」
  「俺が助けても根本的な解決にはならないと思うぞ、俺が勝ってもあんたが勝った事にはならない
   からな、それに俺は、あんなのと闘う気はないぞ、街中で攻撃的な魔術を使ったりしたら、ほと
    んどの街の法律に引っかかるんだ、鉄球を素手で砕くような相手と、魔力を使わずに戦ったら
    殺すか殺されるかだ、んな事が出来るか」
  「じゃあ、私を少しの間だけ強くするとかできないんですか?」
  「…出来ない事もないが、しばらくバーサーカーになっちまうやつとか、一週間ぐらい精神病院に
   入院しなきゃならなくなる薬しかないぞ」
  「麻薬じゃないですか!?」
  「なにぃ、失敬な事を、俺が調合した新薬だぞ、俺以外は知らんから、違法薬物としては扱われな
   い、よって麻薬ではない」
  「どっちにしろ犯罪じゃないの…」
   アーリィが指摘するが、ゼロは動じず言った。
  
  「ふっ、実は違法薬物として扱われる可能性のある薬を調合しても、罪には問われない、刑法第二
   百八十二条第三項、違法薬物製造に関する特例に明記してある」
  「確かにそうだね、僕もそう記憶している」
  「何であなた達そんな事をしっているんですか…?」
   ラルフがつぶやく様に言った、するとゼロは平然と言う。
  
  「一応俺は弁護士としての資格を持っているからな、フラッシュは多分、調べた事があるんだろ」
  「え、あなた弁護士だったんですか?」
  「いや、『サンクチュアリ』の指令を受けて、その仕事の都合上、取らなきゃならなくなっただけ
   だ、つまり資格を持ってるだけ――」
  「ぺぎゃ…」
   と、突然妙な声が聞こえた、声のした方を見やると、ラルフにヘッドロックをかけるテレイアが
    見えた。
  
  「魔力使さん達は邪魔をしないでくださいね、これは私とラルフの勝負ですから」
   ぎゅうっと力を込めて、ラルフの首をさらにきつく締めつけながら、テレイアが言う、それに対
    してゼロはこう言った。
  「まあ、勝手にやっててくれ…」
   ゼロが言うと、突然テレイアの体が宙に浮かび、木の床に叩きつけられた。
  
  「はぁっ死ぬかと思った…」
  「意外と強いのね、これなら何とかなるんじゃない?」
   ヘッドロックから抜け出して、息を荒げるラルフに他人事の様にアーリィが言うが、そこにテレ
    イアが起き上がり、ラルフの懐に跳びこみ、右腕でボディーブローを放つ、が、ラルフは右膝
    でテレイアの腕を蹴り上げてそれを防ぐ、しかし、テレイアは続けざまに右足でミドルキック
    を放つがラルフはそれを左腕で防ぐ、が、蹴りが当たった瞬間、ゴギンッと鈍い音がする、それに    
    構わずにラルフは右足でローキックを放つ――そんな闘いが繰り広げられているのを、離れて    
    見物しながらゼロが言う。
  
  「なるほど、戦闘技術ではラルフが上、しかし身体能力ではテレイアが上か、なかなか面白い闘い
   だが…こんなとこにいつまでもいたら、あの二人に巻き込まれて警察に捕まっちまう、とっとと
    『サンクチュアリ』で路銀を稼がないと、次の目的地にも行けないんだ、行くぞ」
   そう言うとゼロは、ドアを開けて外に出る、フラッシュとアーリィ、そしてペイシェントもそれ
    に続く、レイも少し迷ってから、ゼロに追いつくように、小走りで外に出ながら言う。
  
  「い、良いんですか?ほうっておいて、テーブルとか壊しちゃってますよ…」
   レイが言っている時にも、二人は椅子を蹴り飛ばし、テーブルを投げ、店の中の物を壊しながら
    闘いを続けている、そろそろ店主が警察に電話を掛けているだろう。
   しかし、それらを無視してゼロは言う。
  
  「さーてと、『サンクチュアリ』に行くぞ、次の目的地はちっと遠いからな、少し多めに路銀を手
   に入れないと、もしもの時に、行き倒れになりかねん」
  「そうだね、君といると、なぜか旅の途中で路銀が尽きてしまうからね」
  「お前な、本気でそれを言ってんのか!?君といると?お前だよ、お前が原因なんだよ!」
   フラッシュの言葉にゼロはつい声を荒げる、そんなゼロをなだめる様に、肩を叩きながらアーリ
    ィが言う。
  「フラッシュにそんな事言ったって無駄よ、諦めなさい」
  「原因其の二が言うな!!何だってお前らはカジノを見つける度に、俺からサイフを盗んでは、中
   身を消して来るんだ!?お前ら二人は、一度本気で、肉体そのものを消し飛ばした方が良さそう
    だな!」
  「お、落ち着いてください、御主人様、こんな所で魔術を使ったりしたら…」
  「そ、そうそう、落ち着きたまえ、ゼロ君」
  「や、やめましょうよ、ほ、ほら、逮捕されちゃうわよ」
  「ちっ、まあ良い…行くぞ」
   ゼロはそう言うと、『サンクチュアリ』に向かって歩き出した、他の四人も少し遅れて歩き出した――
    
  




posted by ベネディクト at 14:45| Comment(1) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年05月20日

魔力使の旅物語 0話 悪魔の登場―エピローグ

   ――しかしペイシェントはふと立ち止まった。
  
  「人間という物は初めて見たが、なかなか面白い生き物だ……」
   ペイシェントがそうつぶやくと、遠くからゼロが声を上げる。
  
  「おーい、何やってんだ、早く来い!」
   見るとゼロ達は、ペイシェントが立ち止まっている所から大分先に進んでいた、ゼロに呼ばれて
    ペイシェントは再び歩き出した。  
   
   空からは、今日も暑い光が降り注いでいた。
    
posted by ベネディクト at 14:42| Comment(15) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。